正直に言います。
私は以前、「主体性を高めたい」と本気で考えていました。
特に、次世代を担う幹部候補には、もっと自分で考え、自分で動ける力を身につけてほしい。
そう思い、1週間の外部研修に送り出したこともあります。
本人たちは多くの学びを得て帰ってきました。
レポートも前向きでした。
表情も引き締まっていた。
ですが―― 現場の行動は、ほとんど変わりませんでした。
原因は、人材でも研修内容でもありませんでした。
私の「設計」が曖昧だったのです。
この記事では、抽象的な目標が組織に届かない理由と、私が実際に試した「”できる状態”に落とす」という考え方をお伝えします。
なぜ研修を受けても現場は変わらなかったのか
当時の私は、
- 研修内容が足りなかったのかもしれない
- もっと継続的にやるべきかもしれない
そんなことを考えていました。
ですが今振り返ると、問題はもっと手前にありました。
研修に送り出す前、私は本人たちに何も問いかけていませんでした。
「この研修で何を学んでほしいか」はおろか、「帰ってきたら何ができるようになっていてほしいか」すら、言葉にしていなかったのです。
そして帰ってきたあとも、同じでした。
「どうだった?」と聞くだけで、学んだことを現場にどう接続するかのフォローは何もしていなかった。
本人に責任がないとは言いません。
ですが今振り返れば、研修前後の関わり方が問題でした。
上司として、経営者として、やるべきことをやっていなかった。
これは率直な反省です。
そして気づいたのは、この問題の根っこは「フォロー不足」ではなく、もっと手前にあるということでした。
私は、「何ができるようになれば主体的なのか」を定義していなかったのです。
「主体性を高める」——この言葉は、経営者としてとても魅力的です。
ですが、同時に非常に曖昧でもあります。
- どの場面で?
- 何を判断できる状態を指すのか?
- どんな行動が取れれば”主体的”なのか?
そこが決まっていなければ、研修前に何を問いかけるかも決まらない。
帰ってきたあとに何を確認するかも決まらない。
フォローする以前に、ゴールがなかったのです。
抽象的な目標は、現場にとっては判断材料になりません。
判断できない目標は、行動につながらない。
これが最初の気づきでした。
転機になった問い
あるとき、自分に問い直しました。
「私は、具体的にどう動いてほしいのか?」
この問いは単純に見えて、答えるのが難しかった。
「もっと積極的に」「自分で考えて動いて」——頭に浮かぶのはどれも、また別の抽象語でした。
自分が抽象の中をぐるぐるしていることに、そこで初めて気づきました。
そこで私は、一つのルールを自分に課しました。
「第三者が見て、できたかどうか判断できる言葉にする」というものです。
感覚や印象ではなく、行動で語る。
評価する側の主観に依存しない言葉にする。
この制約を設けることで、初めて言葉が具体に向かい始めました。
試行錯誤の末にたどり着いたのが、「問題が起きたとき、”どうすべきか”の仮説を持って報告できる」という状態でした。
主体性という言葉をやめ、”できる状態”に置き換える。
簡単なことに見えて、これが一番難しい作業でした。
そして同時に、これができていれば、研修前に「この状態になって帰ってきてほしい」と伝えられた。
帰ってきたあとに「仮説を持って報告できているか」を確認できた。
当時の私に欠けていたのは、この一点だったと思っています。
“できる状態”を定義したら、何が変わったか
定義してから、報告の質が変わり始めました。
以前は「トラブルが発生しました」で終わっていた報告に、「私はこう対応すべきだと考えています」が添えられるようになった。
この一文の差は大きい。
事実の共有から、思考の共有へ。
会話の質が変わり、判断のスピードが変わり、任せられる範囲が少し広がりました。
変化はもう一つありました。
私自身のフィードバックが変わったことです。
以前は「もっと主体的に動いてほしい」という言葉しか出てきませんでした。
ですが定義してからは、
「仮説を持って報告できていたか」
「できていなかったとしたら何が難しかったか」
という会話ができるようになった。
抽象的な評価は、受け取る側にとって何をすればいいか分からない。
具体的な行動で評価することで、初めてフィードバックが機能します。
組織が変わらなかったのは、人材の問題ではありませんでした。
私の設計が曖昧だった——それが原因でした。
劇的な変化ではありません。
ですが、確実な変化でした。
今、私が大切にしていること
今は、抽象的な言葉をそのまま使いません。
必ず問い直します。
- 何ができるようになるのか?
- どの業務場面で使うのか?
- 第三者が見て分かる行動か?
そして研修を設計するときは、この問いへの答えを先に決めます。
研修前に本人に伝え、研修後に一緒に確認する。
それだけで、研修の意味が変わります。
派手ではありません。
ですが、抽象目標を”できる状態”に落とすこと。
ここからしか、組織は動き出さないと感じています。
私は今も、自社でこの設計を磨き続けています。
“できる状態”の具体的な定義の仕方については、こちらの記事で詳しく書いています。
